こんにちは、総務部理事の中井です。
新年は元旦の雪から始まりました。
この1月の冷え込みによるのかインフルエンザが猛威を振るっており、患者数は昨年末からさらに増加し、全国で警報レベル(調査対象の医療機関などで平均患者数が週30人を超えた場合に発令)に達しています。
府内でも年末に警報レベルに達し、一旦減少したものの、再び警報レベルに達する状況となっています。今後も流行が続くことが予想されますので、体調管理には充分にご注意ください
元旦の夜 雪景色
トリアージ(triage)訓練
先月のブログでは、1月17日に実施しました全市一斉総合防災訓練についてご紹介し、その模様は1月19日の「撮れたて箕面ブログ」にアップされていますが、改めて、同訓練の一環として、箕面市で初めて実施したトリアージ訓練の内容をご紹介します。
この訓練は、東海・関東地方を中心に何カ所かの自治体や病院で実施されていますが、大阪府内では、市民を対象に災害現場での具体的な傷病を想定してトリアージまで行う訓練は珍しいのではないかと思います。
想定される最大負傷者数・死傷者数とトリアージ
大阪府の推計では、大地震が発生したとき、箕面市内で想定される最大負傷者は1,574人、最大死傷者は65人に上り、これら多数のかたに同時に救急・医療を提供することは不可能です。
このため、医療資源(医療スタッフや医薬品等)が制約される中で、一人でも多くの傷病者に対して最善の治療を行うため、傷病の緊急度に応じて、搬送や治療の優先順位を決定するトリアージを行い、救命の可能性が低いかたよりも、可能性の高いかたから順に救護、搬送、治療にあたることになります。
~災害現場~ 負傷者が多数、あなたならどう判断しますか?
災害現場では、医師もいない、医療器具や設備もないという状況が想定されます。
そこでは、医師以外でも呼吸回数・脈拍数、意識はしっかりしているか、介助で移動は可能かなど、医療機器を使用しなくても客観的に短時間に判定できる、START法という一次トリアージがとられ、緊急性、生存の可能性が高い傷病者から順に搬送されます。
一次トリアージでは、全身の観察は行われないことや傷病度を過大評価しやすいことから、より正確な医療トリアージが継続して行われることが前提となります。
また、実際に搬送される医療施設でも、市内各所から多数の患者さんが搬送されるため、改めて血圧・脈拍、呼吸・体温・意識状態などのバイタルチェックを含めた二次トリアージが行われます。
あなたならどうしますか?
大地震が突然発生し倒壊した建物の下敷きになったり、怪我をした負傷者が目の前に多数おられ救助を求めています。
急いで医療施設に運ぶ必要がありますが、救急隊の到着はいつになるかわからず、自分たちで搬送する以外に方法がありません。
あなたならどの順番で搬送しますか?
次の事例は、今回の一次トリアージ訓練で実演したものですが、万一を想定して考えてください。
<事例1>
年齢:40歳
状況:飛んできた瓦が顔に当たり眼球が飛び出し、かなり痛がっている。意識は少しもうろうとしているが、自分の名前は言える。
判定結果は、「黄」です。
(準緊急(待機的)治療群 2~3時間処置を遅らせても悪化しない程度)
眼球が脱出しており、病院で措置を受ける必要があります。
平常時では、当然緊急手術の対象となりますが、災害時には生命の危険を第一条件として判断するため、このような状態でも赤タッグにはならず、黄色のタッグとなります。
ただし、外傷で片方の目を損傷しますと、反対側の目にも障害が及ぶこともあり、適切な処置が必要になりますが、今すぐにではなく2~3時間は待てるだろうという判断になり、判定は黄色になりました。
<事例2>
年齢:35歳
状況:9時の発災直後から自宅内で倒れてきたタンスに腰から下が挟まれている。
意識はもうろうとしており、腰が痛いと言っている。
一見したところ大きな外傷は見当たらない。
判定結果は、「赤」です。
(緊急(最優先)治療群 生命・四肢の危機的状況で直ちに搬送・入院が必要)
この状態はクラッシュ症候群が疑われます。クラッシュ症候群は、救出後、病院で一番多い死因となっており、大きな外傷がなくても2時間以上手足などを挟まれていたら疑うことが原則です。
これは、長時間、圧迫を受けていたために、筋肉の組織が壊死し、いろいろな毒素がたまったところに、救助されたことにより急に圧迫がなくなり、それらが全身に回るために起こります。
まず、圧迫からの解放時に、壊死した筋細胞からカリウムなどが血液中へ流れだし、心臓が停止したり、高カリウム血症・腎不全など生命の危険をもたらす状態となります。急いで病院に搬送し、大量の輸液・血液透析等を行い、血液をきれいにする必要があります。
大震災の場合には、このようなかたが多数出るだろうと予想されます。
<事例3>
年齢:25歳
状況:倒れてきた柱に左下腿を挟まれ、骨が見えている。
判定結果は、「黄」です。
(準緊急(待機的)治療群 2~3時間処置を遅らせても悪化しない程度)
災害時に、手足の骨折が1カ所なら「緑タッグ」となりますが、この場合、骨折した骨が傷口から露出しています。
6時間以内に滅菌した生理食塩水で洗浄し、抗生物質などを点滴しないと骨が化膿して骨髄炎となる可能性があります。
このため、「黄タッグ」となります。
<事例4>
年齢:30歳
状況:車で走行中、地震の揺れに驚き、建物に衝突。顔面から出血。
判定結果は、「緑」です。
(保留(軽傷)群 軽度外傷、通院加療が可能程度)
この方は、車を運転中、建物に衝突する事故をおこし、頭から顔にかけて怪我をされています。顔や衣服に血がたくさん付いていて、一見するとたいへんな状況だと思われる方がほとんどだと思います。
一般的に頭や顔からは、一時的にたくさん出血しますが、この患者さんは、既に出血も止まっており、意識もはっきりとしていることから、生命の危険がなく、特に急を要するものではないとして、災害時には傷口をガーゼで保護するなどの応急処置だけの対応となります。
<事例5>
年齢:10ヶ月
状況:タンスの下敷きになり、意識、呼吸無し。親が子を抱きかかえ、早く診てくれと言っている。
判定結果は、「黒」です。
(死亡群、治療、搬送待機群 生命兆候がない、救命不能)
子どもの場合、どんなことがあっても助けたいのが心情ですが、やはり小さい子どもでも瞳孔が開き、呼吸も停止して心臓も動いていない場合には、ほとんど助かる可能性はないと言うことで、黒タッグと非常に厳しい判定となります。
通常ならば、救命の可能性は極めて低くても、医師や看護師がつきっきりで蘇生を試みるケースですが、災害時では黒タッグとして、蘇生を断念せざるを得ないこととなります。
いかがでしたか。
上記の5例は代表的な事例ですが、大切な家族や友人が怪我を負い、頭部から大量出血や手足が骨折していたら、真っ先に医療機関で治療して欲しいと考えるのは当然です。
しかし、災害現場ではとりあえずの応急措置だけを行い、病院ではより重度のかたの治療を優先して行うこととなります。
また、黒の判定、つまり救命不能で、助けないという判断が下される場合もあります。
大災害時の医療従事者の役割は、多数発生した重傷者を一人でも多く救命することであり、救命の見込みのないかた、又は、限りなく救命の見込みが少ないかたに医療従事者、医療設備を投入する余裕はありません。
万一の災害時では、落ち着いた行動と医療活動へのご理解をお願いします。
今回のトリアージ訓練では、箕面市医師会及び被災地などで活躍する陸上自衛隊第36普通科連隊衛生小隊のご協力をいただきました。
また、傷病者は、箕面市役所の若手職員が演じました。皆さん、御協力、熱演、お疲れ様でした。
災害現場で活躍する自衛隊車両
一般の救急車の患者さんの定員は1人ですが、写真の救急車の内部は、左右に2段のベットが作りつけられ、患者さんの定員は4人になっています。
真ん中の装甲車両は、噴石や落下物が想定される現場で使用されます。
訓練の参考資料として、写真の図書を使用しました。
トリアージ関係の書籍を梅田まで出かけ探しましたが、病院、医療施設でのトリアージについて書かれた医療関係者向けの専門書がほとんどで、災害現場について書かれたものは本書だけでした。
箕面市では、3月31日まで『明日くるかもしれない大災害!今すぐ始めよう!家庭の備え』の統一キャンペーンを実施中です。