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政策と所得制限を考える

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皆さま、こんにちは。
健康福祉部長の小野啓輔です。

3月です。
私の数少ない趣味=川柳の鑑賞により
年度末恒例(?)となりました毎日新聞の万能川柳アーカイブから
わが家で勝手に選んだ年間川柳大賞が決まりましたので、引用します。

「めざましを 勝手にとめる コビトいる」
            ~ 勝手にビールを空けるコビトもいます 

「おさいふの 中身も見てる 試着室」
            ~ 妻の一押しです。

「さそり座の 女を歌う お爺さん」
            ~ なんか、好きなんです、この一句

みんな、ホント うまいですね。
川柳は、頭の体操にもなり、発想力、表現力、ユーモアのセンスが身につき、
楽しい時間を過ごせ、心にゆとりが生まれ、仲間もできるなどなど、
気軽に始められる健康法としても注目されています。
来年度は私も、鑑賞から創作へと、ぜひ飛躍したいと思います。

今日のテーマは、「政策と所得制限」。
難しいタイトルで恐縮ですが、このところ私的にこだわっているテーマです。
自分自身の頭の体操のためにも、ちょっとチャレンジして勉強してみたいと
思います。


●特定不妊治療助成制度

私が「政策と所得制限」にこだわりを持つようになったきっかけは、
箕面市が「独自制度」として実施している「特定不妊治療助成制度」です。

子どもが欲しいと望んでいるにも関わらず、恵まれない夫婦は、
およそ10組に1組あるといわれており、不妊治療を受ける夫婦は、
年々増加しています。
不妊治療には、一般不妊治療(健康保険適用若しくは人工授精)のほか、
高度医療による「特定不妊治療(体外受精、顕微授精)」があります。
この体外受精や顕微授精を行う「特定不妊治療」は、、健康保険の適用外となり、
1回の治療に高額の費用(1回当たり30~40万円程度)が必要なため、
不妊に悩む夫婦にとって、身体的、精神的負担に加えて
経済的負担も大きい状況があります。

このため国では、高額な医療費がかかる特定不妊治療に要する費用の
一部を助成する制度を、都道府県を窓口として実施していますが、
助成の対象者を、「夫婦の所得の合計額が730万円未満」に限定しています。
いわゆる「所得制限」を設定しています。

国の「不妊に悩む方への特定治療支援事業」は、こちら
大阪府のホームページは、こちら

一方、箕面市は、不妊に悩む夫婦の経済的負担を軽減し、所得にかかわらず
安心して子どもを産める環境を整えるため、
所得要件により国・府の特定治療支援事業の助成を受けられなかったかたを
対象に、特定不妊治療の助成制度を2年前に創設しました。
つまり、夫婦の合計所得が730万円以上のかたに対する助成制度を
市独自で実施しているのです。

箕面市の独自制度は、こちら

この箕面市独自制度の創設の背景には、
次のような箕面市の地域特性がありました。

(1)統計データによると、箕面市の「合計特殊出生率」(一人の女性が一生に産む子どもの平均数)、「人口千人当たりの出生率」は、ともに大阪府内平均より低い。
(2)箕面市は、出産時の母の年齢が35歳以上の割合が、大阪府内平均よりも高い。
(3)箕面市は、700万円を超える収入(課税標準額)のある人の割合が、大阪府内平均の2倍を超えており、国制度による経済的な支援を受けられないかたが多い。



このような本市の状況をふまえ、当事者の負担のうち経済的負担を少しでも
支援するため、本事業を実施しています。

夫婦合計所得が730万円未満のかたに対しては、国・府の助成制度があるため、
箕面市が730万円以上のかたへの助成制度を独自に創設することで、
所得の多寡に左右されることなく、わが子を持ちたいと希望する夫婦に
あまねく助成を受けることができる状況をつくり、
箕面市の将来を支える世代を育むことをめざしています。

実際、箕面市の独自制度を利用されたかたは2年間で30人で、
妊娠に結びついたかたも18人おられ、効果の高い制度となっています。
平成28年度当初予算案では、国の制度改正にあわせて、市の制度も
助成額の引き上げと男性の特定不妊治療手術への助成を
市議会に提案しています。


●政策における所得制限のあり方

さて、この「特定不妊治療助成制度」ですが、
市の制度だけを切り取ってみると、
「夫婦合計所得730万円以上のかた」に限定した助成制度となり、
いわゆる所得の高いかたのみを対象に助成するという、
健康福祉部でも、極めてめずらしい制度となります。

あくまで私見ですが、
健康福祉部は、貧困や障害、高齢や介護、差別など、
様々な困難を抱えている人に寄り添い、
常に社会的に弱い立場の人、マイノリティの視点を重視した部でありたいとの
思いがあります。
その中で、この「特定不妊治療助成制度」をどう考えるのか。

もちろん、この制度は、不妊に悩む方々に寄り添い、
国・府の制度と合わせて、結果的にすべての人を支援する制度となるのですが、
例えば、「高額所得の人に助成するお金があるなら、より所得の低い人への
政策に使うべき」等のご意見も、実際にお聞きしたことがあります。

それが、私が「政策における所得制限のあり方」を考えるようになった
きっかけです。

もちろん、すべての政策において、所得制限無く、あらゆる人を支援できれば
良いのですが、現実問題、そうもいきません。
また、すべての政策において、対象を低所得層に限定し特化することも、
社会の支持を得られるか、疑問です。
上から目線で、かわいそうな人たちを何とかしようという思いだけ先行しても、
社会は良い方向に進みません。

所得制限、是か非かという単純・二択ではなく、
そこに何かポリシーのようなものがいる。それは何なのか?
私の抱く問題意識は、ここにあります。

そんな悩める私に、ヒントを与えてくれる出会いがありました。
先日、偶然が重なり参加したイベントで聴いた、
慶應義塾大学の井手英策先生の講演です。

井手先生は、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政学、財政金融論。
第15回大佛次論壇賞も受賞され、日本銀行での勤務経験もある
43歳の気鋭教授です。

この人の講演、実に刺激的でおもしろい。
自らを、人の嫌がることを言う天才「ジャイアン」と呼び
様々な社会問題に取り組んでいる人々を挑発し、
一般に思い込まれている「常識」を次々とくつがえしていきます。
講演を聴いた人も、賛否両論、分かれるのですが、
何かとても痛いところを突かれた自虐的な快感と、
もっと勉強しなければという向上心が残ります。
私は密かに、財政学会の綾小路きみまろと呼んでます。


●井手ジャイアン 常識を斬る

講演内容は、もちろん私の乏しい理解力の範囲内での断片的なご紹介となり、
先生の研究の広さ・深さは全くお伝えできないと思いますので、
関心のある方は、ぜひ著書等の原典をお読みください。

講演で先生はいきなり「困っている人、弱い人を助ける救済の政治」を、
分断社会を生むものとして、バッサリと否定します。

また、日本が大きな政府になりすぎて財政が破綻する、公務員が多すぎる、
高齢社会で支える人が減る肩車社会となるなどの「常識」を、
各種客観的データを駆使して、くつがえしていきます。

さらに、
「格差の是正は政府の責任であると思うか」
「公務員は、最善を尽くしていると思うか?」
「あなたは社会にいる他の人々を信頼できるか?」
「あなたはどれぐらい自由を感じるか」
などの国民意識の国際比較データを突きつけ、
日本社会が必ずしも思いやりに満ちた寛容な社会ではないことを立証します。

例えば、「格差の是正は政府の責任である」という質問に対し、
「強く同意する」「同意する」と答えた日本人の割合は54%でした。
OECD加盟国の平均値は69%です。
このことから、私たちは、他国と比べて、格差を是正しようという気持ちが
明らかに弱いことがわかります。
また、「人間は信頼できる」と思う人の割合は、
デンマーク・ノルウェーなどが7割以上、アメリカでも5割なのに対し、
日本は3割に過ぎず、先進国で最低レベルになっています。
「貧しい家庭の大学生に経済的援助を与えることは政府の責任ではない」と
思う人の割合にいたっては、日本が42%と断トツで多く、
2位のスウェーデン26%を大きく引き離しています。

脱貧困、格差是正、弱者を救え、貧しい人を見殺しにするな・・・。
ある意味、誰もが「かわいそうだ」「なんとかしたい」と思えるようなことも、
実は、多くの日本人の心に響いていない。

ここから井手先生は、日本は、
人間への疑念を抱え、人や政府を信頼しない社会になってしまっており、
人間を信頼しない社会は、弱者を黙殺する社会になると看破します。

曰く、貧しい人を見殺しにすることを望む人はいません。しかし、
自分が犠牲を払ってまでそういう人たちを助けようと考えるかといえば、
多くの日本人がそうではありません。
貧困にあえぐ人びとに大きな関心を寄せない社会を私たちは生きているのです。

そして、その象徴が、日本人の税負担への抵抗感・痛税感の強さです。
これも国際比較で立証されています。
多くの日本人が他者のために税を払いたくないと考えているということ、
それは、貧しい人のために汗を流そうという気持ちを失いつつあり、
他の誰かのための負担を嫌う「不寛容な社会」となっていることを明らかにし、
その原因を「税金を納めても、それに見合うだけの受益感がないから」と、
ズバリ核心を衝いていきます。


●弱者救済が格差を拡大?

井手先生は、さらに、返す刀で、貧しい人を助けようとする「救済主義」を、
斬り倒します。
そもそも弱者を救済することは、100%正しいのか?

貧しい人を助けようとする社会が、より格差を大きくする
貧しい人を重視し過ぎると、財政状況が悪化する
救済型再分配は、限界があり弊害が大きい

これらの挑戦的な投げかけを、相対的貧困率や再分配政策への支持率、
所得制限政策等の分析により、次々と繰り出していきます。
結局、貧しい人を助ける社会というのは、中間所得層・高額所得層が
負担する社会のことで、弱者救済を強め過ぎれば、
受益のない中間所得層・高額所得層が反発し、低所得層への憎悪が高まり、
救済政策は支持されず、租税抵抗が強まり、さらに財政状況の悪化を生む
という構造を、見事にあぶり出しています。

また、救済に伴う屈辱の問題も、無視しません。
自分がいかに無力で貧しいかを公に告白しないと助けてもらえない、
助けられることがいかに屈辱か、
受給者に「恥ずかしい」と思わせる残酷な制度。
「困っている人を助けてあげる救いの手」は、
救済であると同時に、確実に人間を深く傷つける。
このことを自覚しない限り、救済と自己満足は紙一重になってしまう。
実に重い言葉です。


●では、どうしたら良いのか?

井手先生は、発想の転換を提起します。

「弱者を助ける」から「弱者を生まない」へ、
「救済の政治」から「必要の政治」へというものです。

具体的には、「人間の必要」という視点に立ち、
思い切って中高所得層も受益者としてしまう「必要主義」。

所得制限をつけて貧しい人を助ける「救済型再配分」ではなく、
所得制限を減らし人間の必要を満たす「共存型再配分」。
つまり、「◯◯円以下の所得の人は無料で利用できます」という「所得制限」を減らし、
教育や福祉、医療、育児・保育といった人間の必要を
中間層も含めたあらゆる人びとに等しく提供し、多くの人たちを受益者にする
という戦略です。
貧しい人にも一定の税負担を求め、所得の多い人たちにも分け隔てなく
サービスを提供する。
あくまでも人間の必要を満たした「結果」として、格差が縮小する。
「弱者救済」という私たちの常識とは正反対の格差是正策です。



そして、その「必要の社会」実現のためには、
地方自治体が重要な担い手となると提起されています。
人間が必要とする福祉、医療、教育といったサービスを提供するのは、
地方自治体だからです。

国は、憲法に定められた生存権の保障を行うので、「救済型再分配」を行う。
地方自治体は、生存の次にある生活の保障を、「共存型再分配」で行う。
可能な限り多くの住民に地方税の納税を求め、
可能な限り多くの住民にサービスを提供していくことで、
人間の必要をメンバー全員に満たしていく

このように、発想と仕組みを転換すると、
中高所得層が社会的弱者を批判する理由はなくなります。
人の粗探しをするよりも、社会全体にとって何が必要で、
何が大切かを考えることが意味を持つようになります。
弱者と連帯し、彼らの困難に気を遣うほど、自分の利益が大きくなる、
そういう社会にすることで、人間と人間の対立軸をなくしていきます。
「必要原理」で地方財政を作り変える。
これが、井手政策の真骨頂です。


●自分を大切にすることが
 同時に人を大切にすることになる生きかた

井手先生の講演を長々と紹介してきましたが、
読み返してみると、やはり理解不足・断片的なところが多々ありますね。
自分が十分咀嚼・理解できていないところは、
なんか小難しく引用しているだけになっています。
このテーマは、引き続き勉強していきたいと思います。

最後に、クールヘッドな経済学者 井手先生の
ウォームハートな部分をご紹介します。
講演の最後を、とある校長先生の詩で締めくくられます。

「自分を大切にすることが
 同時に人を大切にすることになる生きかたを
 なんとしてでも見つけ出し、作りださねばならぬのだ
 それは、人間にだけできるのだ
 それが、人間の権利であり、義務なのだ。」

                       深澤義旻「人間のうた」より



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